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トピックス

ワクチンパスポートと美術館【デンマーク・イスラエル】

日本でも先日、3度目の緊急事態宣言、東京都美術館などが休館となり、1000平米以下の美術館・博物館についても休業協力を要請されることとなりましたが、他の国でのコロナ状況下での美術館の扱いはどのようになっているのでしょうか?

今回はデンマークとイスラエルに焦点を当てて、現地でどのような対策が行われている・行われる予定なのか、イギリスの美術館・博物館の専門月刊紙「THE ART NEWSPAPER 」の「Museums weigh in on the vaccine passport debate, as countries are under pressure to open up their economies 」を元に紹介していきます。

デンマークってどこ?人口は?

デンマークは、スカンジナビアと呼ばれるヨーロッパ北部に位置し、ユトランド半島と多くの島々からなる北欧の国です。世界で最も小さい国の一つですが、ヨーロッパに置いて最もデジタル化が進んでいる国でもあります。

首都はコペンハーゲンで、人口は約580.6万人です。日本の人口は2019年時点で1.263億なので、日本と比較するとかなり少ないですね。県で例えると兵庫県と同じくらいの人口がデンマーク全体の人口ということになります。

イスラエルってどこ?人口は?

イスラエルは地中海に面する中東の国で、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地でもあります。ヨーロッパからはそれほど遠くはなく、フランス・パリからですと飛行機で4時間ほどの距離です。

イスラエルもデンマーク同様、デジタル分野が盛んな国でもあります。デジタル分野中心のスタートアップ(ベンチャー企業)約2万5000社があり、第二のシリコンバレーとも呼ばれています。首都はエルサレムで、人口は905.3万人で、ユダヤ人(約74%)、アラブ人(約21%)その他(約5%)となっています。

美術館入館とワクチンパスポート

では、この2つの国で一体どのようなコロナ対策が考えられているのでしょうか?
早速みていきましょう。

現在デンマークとイスラエルでコロナ対策として検討されているものが、美術館入場の際に「ワクチンパスポート」の提示を必須にするか、というもの。

Denmark and Israel have introduced vaccine passports as a way to ease their populations out of the Covid-19 pandemic lockdown and speed up the return to public life.

デンマークとイスラエルは、Covid-19のパンデミック・ロックダウンから人々を解放し、公的生活への復帰を早める方法として、ワクチンパスポートを導入しました。

引用&Photo © https://www.theartnewspaper.com/news/museums-weigh-in-on-the-vaccine-passport-debate, Amir Cohen/Reuters/Alamy

ワクチンパスポートとは?

今年の2月上旬、デンマークのモーテン・ボドスコフ財務相代行が「新型コロナ・パスポート」の発行をまもなく開始すると発表しました。このパスポートはいわゆる新型コロナのワクチンを接種済み、もしくは免疫を獲得済みかを証明するアプリです。

デンマークで開発されている、この「コロナパスポート」通称「コロナパス」は、スマートフォンまたは紙の形式で、完全にワクチン接種されているか、2〜12週間前にCovid-19の検査で陽性、または過去72時間で陰性の人が利用できます。

イスラエルでは「グリーン・パス」と呼ばれ、ワクチン接種完了後に1週間以上経過したものを証明するものになっています。コンセプトは一緒ですが、その規程は導入国よって異なります。

デンマークでは美術館入場にコロナパスが必要

デンマークでは、5月6日から美術館入場のために、「コロナパス」の提示が必要になりました。一方で、イスラエルの美術館は国の「グリーンパス」プログラムから免除されています。
ただしイスラエルの場合はホテル、レストラン、ジム、スポーツ施設、劇場、映画館への入場には必須です。

コロナパスの導入で美術館側は…

このワクチン接種の有無を証明するアプリ「コロナパス」を導入することによって、美術館側は、その政策が訪問者を遠ざける可能性があることを懸念しています。

また、なぜ人が混むスーパーではなく美術館に導入する必要があるのか、という点に対しても疑問を感じているようです。ですが、デンマークはデジタル化が進んでいることもあり、人々がこの「コロナパス」に順応していくことも期待されています。


Karen Gron, the director of the Trapholt Museum of Modern Art and Design in Kolding, is concerned that the mandatory pass will bar access to the 50% of -visitors who make a spontaneous visit in normal times. The museum, which has been closed since January, reopened to the public on 21 April.

コリングのトラップホルト現代美術館の館長であるカレン・グロンは、必須のパスが通常の時間に自発的に訪問する訪問者の50%へのアクセスを妨げることを懸念しています。 1月から閉鎖されていた博物館は、4月23日に再開される予定でした。

Photo © By Hansjorn at the Danish language Wikipedia, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=6866534


ワクチンパスポートに関する政府の協議が物議を醸しているイギリスでも、ワクチンパスポートの使用について国立博物館理事会は、「博物館の公的使命と価値観と対立している」・「美術館にとって運用上および管理上も負担になる」として、その使用に反対の姿勢を指名しています。

さらにデンマークの近隣国スウェーデンでは、ワクチンパスポートの導入は、おそらく大規模なイベントに限定される形式を検討しており、美術館については、スウェーデン美術館協会の書記長であるJeanetteGustafsdotter氏が「美術館はすでに再開を開始しており、ワクチンパスの要件には含まれません」と述べています。


because we want to encourage children and young people to visit.

子供や若者の訪問を奨励したい

Photo © By Itayba at Hebrew Wikipedia – Transferred from he.wikipedia to Commons., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3289896


イスラエルでは既に人口のほぼ60%が4月中旬までに予防接種を受けており、「グリーンパス」スマートフォンアプリは、人が予防接種を受けたか、コロナウイルスから回復したことを証明する役割を果たしています。ですが、ワクチンを接種できていない年齢層もあり、その多くは子供であり、現在子供にワクチンは利用できないことから、テルアビブ美術館の館長であるタニア・コエン・ウッツィエリは、「子供や若者の訪問を奨励したいので」、美術館のグリーンパス(ワクチンパスポート)導入に強く反対すると述べています。

日本は導入するのか?

日本では今のところワクチンパスポートの導入は決定されていません。ですが、4月26日に経団連(日本経済団体連合会)は、ビジネスなどで海外に出かけた人が円滑に移動できるよう「ワクチンパスポート」の導入に向けて、政府などへの働きかけを強めていく考えを発表しました。

ワクチンパスポートは、妊婦の人やアレルギーなどでワクチンが接種できない人もおり、倫理上の懸念がまだまだ議論されていますが、これから日本にも浸透していくのかもしれません。